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細野ゼミ 補講5コマ目 [バックナンバー]

細野さんに聞きたい、あの曲この曲(ハマ・オカモト 前編)

“細野体質”とは?ハマ・オカモト、YMO名曲を通してベーシスト細野晴臣の真髄に迫る

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「ちょっとは考えるよ」

ハマ 今回、いろいろ聞けてうれしいな(笑)。次は「TECHNOPOLIS」です。

YMO「TECHNOPOLIS」

ハマ シンセベースの曲ですが、曲を通して生のプル(人差し指などで弦を引っ張って音を出す奏法。スラップ奏法の一部)が差し込まれるじゃないですか。シンベの中でプルだけが生のベース……なぜこれをやろうと思ったのか。初めて聴いたのが高校生の頃だったと思うんですけど、「なんで!?」と思った。

安部 わかる(笑)。

細野 なんでだったかな。うーん……誰かに「ベースを付け加えて」と言われたのかもしれないよ。

ハマ この閃ききがね、ものすごくカッコいい。っていうのと、細野さんはスラップはやらないじゃないですか。でも意外とプルは多い。装飾として入れるのが好きなんだろうなと。僕は細野さんのプルに影響を受けていて、自分のバンドの曲にも入れることが多いです。

細野 「TECHNOPOLIS」は古典的な作りなんだ。「歌謡曲みたいな曲を作ろう」って話からできた曲で。シンセベースも「♪ウッダ、ウッダ、ウッダ」って非常にシンプルじゃない? ちょっと寂しいんだよね。それでプルを入れたんじゃないかな。

安部 自分だったら、あのフレーズを思いついても、常識だったり曲の流れとかだったりを気にして「どうなんだろう」とか考えちゃう。細野さんはそういうとき、「面白そうだからそれでいいじゃん」ってなるんですかね?

ハマ 何も考えてない人みたいに(笑)。

細野 ちょっとは考えるよ(笑)。

安部 「これはちょっと違うな」ってときもありますか?

細野 それはあるよ。そういうときはパッとやめる。そんなに判断に時間はかからない。

「ベースって、考えたら弾けないんだよ」

ハマ ご本人の前で言うのもアレだけど、センス抜群ですよ。続いてはYMOの「サーヴィス」から、幸宏さん曲の「Chinese Whispers」。ベースがとんでもないんですよ。僕、昨日やってみたらコピーできなかったんです。

細野 ひさしぶりに聴くから、覚えてないなあ。

YMO「Chinese Whispers」

安部 (聴きながら)うおー! カッコいい!

ハマ 何これ!

細野 これはツーフィンガーで弾いてるね。

ハマ 全体的に細野さんの特長が出ている曲。細野さんのフレーズって、“1つのフレーズの、どこまでを1と捉えているのか”がたまにわからないことがあるんです。

細野 どういうこと?

ハマ 思ってもないところでフレーズが止まったりするから、「2小節くらいを1つのフレーズとして捉えているのかな?」と思うときもあって。この曲のAメロとかもそうなんですよ。

安部 わかる。そういうところ、聞いてほしかった。

細野 意識はしてないね。体質だよ、これ(笑)。

安部 えー!

ハマ 体質! 普通のプレイヤーがやるとノリが止まっちゃったり、聴いている人に「ワンテイクで録っていて、あそこはちょっと迷っちゃったけどノリがいいから採用したのかな」みたいに思われたりする。それはそれでいいんだけど、細野さんの場合は全然そう聞こえないんですよ。「おっ?」と思ったこっちが間違いというか(笑)。

安部 そうそう。違和感なく、違和感があることを普通にやっている感じ。正攻法的には変なことしているはずなのに、みたいな。

細野 たぶん、体質。

ハマ “体質”、今度から使おう(笑)。

細野 1曲通して録音するときは、「間違えたから、ちょっとそこだけダビングしよう」とかはあまりなかったよ。やり直しはしない。

ハマ 細野さんの曲をいろいろ聴いていて、間違えたところだけ直すとか、そういうことをしてきたわけではないというのはわかる。「何回もやって」とか「ものすごい考えて」みたいなフレーズ、特に1970年代のプレイにおいてはないと思う。

細野 ないない。ベースって、考えたら弾けないんだよ。

安部ハマ うわああ!!!!

ハマ その言葉だけで1ページ使っていいくらいですね。

細野 だって、曲はどんどん進んでいくんだから。

安部 僕はてっきり、「これだと普通だから、わざと外してみよう」と考えているのかと思ったんですよ。

ハマ そのいやらしさはないですよね。そうすると、いやらしく感じるときがあるんだよ。アレンジになっちゃうから。でも、それにしても「Chinese Whispers」の集中力は異常ですよ、細野さん。あの演奏を4分もやるんですから。

細野 今聴いたら、自分でもそう思った。こんなの今は弾けないよ。

安部 ハマくんでも難しい?

ハマ ツーフィンガーだとしても、プルを入れるタイミングとかが意味がわからない。自分の中にないタイミング。

安部 体質だ!

ハマ そう、体質が違うから! これはかなり“細野体質”が出ていますね。そして細野さんのベース演奏の中でもかなりテクニカル。ほかの曲と比べても、際立って違うものを感じますね。

細野 この頃も、まだベーシストだったんだよね。ベーシストってやっぱりピークがあったりするわけだよ。今は指が動かないからこんなの弾けないけど、当時は一番指が動いた頃。

ハマ とまあ、今回の補講はこんな調子ですが、まだお付き合いいただけますでしょうか。

細野 もちろんだよ(笑)。

<後編に続く>

プロフィール

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏坂本龍一Yellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。2023年5月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」が発売50周年を迎え、アナログ盤が再発された。2024年より活動55周年プロジェクトを展開中。

安部勇磨

1990年東京生まれ。2014年に結成されたnever young beachのボーカリスト兼ギタリスト。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加した。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表。日本のみならず、アジア圏内でライブ活動も行い、海外での活動の場を広げている。2021年6月に自身初となるソロアルバム「Fantasia」を自主レーベル・Thaian Recordsより発表。2024年11月に2ndソロアルバム「Hotel New Yuma」をリリースし、初の北米ツアーを行った。never young beachとしては2025年12月8日に初の東京・日本武道館公演を行う。

ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生とともにOKAMOTO'Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、2023年1月にメンバーコラボレーションをテーマにしたアルバム「Flowers」を発表。2025年2月に10枚目のアルバム「4EVER」をリリースした。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を上梓した。

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