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市川由紀乃「朧」ジャケ写

市川由紀乃

病気療養からの復帰作は覚悟の1曲、苦境から立ち上がり再び歩み始める“女の強さ”

文 / 小野田衛

覚悟の1曲と言っていい。市川由紀乃が悪性がん治療のために昨年6月に休業に入ったことを、熱心なファンならずともニュースなどで知った方は多いのではないか。当初は卵巣腫瘍の疑いで検査を受けたものの、その後、卵巣がんであることが判明。懸命の抗がん剤治療を続けていたのだ。そんな彼女が1年2カ月ぶりの新曲「朧(おぼろ)」で力強くシーンに戻ってくるのだから、注目度が格段に上がっていることは間違いない。

クレジットは「作詞:松井五郎 / 作曲:幸耕平」という2023年の「日本レコード大賞」優秀作品賞を受賞した「花わずらい」と同じ最強布陣。「きりきりと きりがなく 女に させてくださいな」「そっと交わした肌と肌 体の芯が震えてる」といった歌詞からは、情念に満ちた恋模様と同時に、苦境から立ち上がる“女の強さ”を感じ取ることができる。

サウンド面も楽曲世界をドラマチックに演出している。全体を包み込む流麗なストリングス、メロディに寄り添うディストーションギターのオブリガード、抑制的かつシャープなリズム隊……高級感あふれる重厚なサウンドプロダクションが耳に心地よい。

そして、なんと言っても市川の“歌”である。子供の頃から歌唱力に定評があり、テレビの素人参加型歌番組で賞を総なめにしてきた彼女。驚くべきことに、デビュー32年目になる現在もその向上心はいささかも衰えていない。市川は2002年から4年半にわたって「“上手な歌”というのがわからなくなってしまった」ため活動を休止したが、思えばこれも歌に対するストイックな姿勢ゆえかもしれない。いずれにせよ、説得力や表現力といった部分で「朧」では随所に“進化”が感じられるのだ。

「恩師・市川昭介先生からは、感情面を徹底して鍛えられました。“私の歌を聴いてよ!”という押し付けがましい邪心があると、お客様の心には届かない。まっさらな気持ちで常に舞台に立たないと」

かつて市川は音楽ナタリーの取材(参照:市川由紀乃|演歌歌手生活30年、ときにはくじけた日もあった。感謝では言い尽くせない思いを語ります。)でこのように語っていた。演歌は“生き様”が濃厚に反映される音楽ジャンルだ。涙さえも友達にして、市川が再び「朧」で歩み始める。

市川由紀乃「朧」ミュージックビデオ

市川由紀乃「朧」
2025年5月20日(火)配信開始 / KING RECORDS
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作詞:松井五郎
作曲:幸耕平
編曲:佐藤和豊

市川由紀乃「朧(豪華盤)」
2025年5月20日(火)発売 / キングレコード
[CD+DVD] 税込2101円 / KIZM-815~6
市川由紀乃「朧(通常盤)」
2025年5月20日(火)発売 / キングレコード
[CD] 税込1500円 / KICM-31170

市川由紀乃(イチカワユキノ)

市川由紀乃

1976年1月8日生まれ、埼玉県出身の演歌歌手。脳性麻痺の障害のある兄とともに母の女手ひとつで育てられる。16歳のときに埼玉新聞社主催のカラオケ大会で優勝。プロダクションのスカウトを受ける。1993年8月、17歳でシングル「おんなの祭り」をテイチクから発表し、デビュー。1994年に「第26回新宿音楽祭」新人賞、「第13回メガロポリス歌謡祭」新人賞、1996年に「第6回NHK新人歌謡コンテスト」優秀賞を受賞する。1998年にキングレコードに移籍し、シングル「一度でいいから」を発表。燃え尽き症候群により2002年4月に歌手活動を休止し、天ぷら専門店「新宿つな八」でアルバイトをする。2006年10月に復帰し、10年後の2016年から、2年連続で「NHK紅白歌合戦」に出場を果たす。2019年には「日本レコード大賞」最優秀歌唱賞、2023年「花わずらい」が優秀作品賞を受賞。近年では吉本新喜劇にゲスト出演するなど活躍の幅を広げている。2024年6月から病気療養のため活動を休止していたが、2025年発売のシングル「朧」で復帰を果たした。