浅井健一のベストアルバム「WHO IS BENZIE?」がリリースされた。
2000年にBLANKEY JET CITY解散後、自身のレーベル・SEXY STONES RECORDSを立ち上げ、ソロ名義に加えてSHERBETS、AJICO、JUDE、PONTIACSといったバンドでも活動してきた浅井。ベストアルバム「WHO IS BENZIE?」には、彼がこれまで発表してきた楽曲の中から自らセレクトしたナンバー17曲が収められており、BLANKEY JET CITY「2人の旅」、AJICO「キティ」のセルフカバーなど一部収録曲は新録されている。
音楽ナタリーでは浅井にインタビューを行い、ベストアルバムの制作経緯や、ブランキー解散から25年を経た今思うこと、“ベンジー”という愛称について思うことなどを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之
ビートルズはベスト盤から入った
──ベストアルバム「WHO IS BENZIE?」、じっくり聴かせていただきました。もちろん知っている曲ばかりなんですが、美しい曲、研ぎ澄まされた曲ばかりだなと改めて実感しました。
ありがとう。
──BLANKEY JET CITY解散後、SEXY STONES RECORDSを設立して25年というタイミングでのベストアルバムですが、このアイテムをリリースするに至った経緯を教えてもらえますか?
なぜだかこういうタイミングになった、としか言いようがないんだけどね。2、3年前からそういう流れが見えていたというか、「オリジナルアルバムを2枚くらい出して、そのあとにベスト盤を出そうか」という話が出てたんだ。それがこのタイミングだったということかな。
──去年はAJICOの新作(EP「ラヴの元型」)、浅井さんのソロアルバム(「OVER HEAD POP」)がリリースされましたからね。確かにベストを出すにはいい時期だったのかも。
そうだね。ベスト盤っていうのも、たまにはいいかなと思った。これをきっかけにして曲を聴いてくれる人がいたらうれしい。
──浅井さんは、10代の頃などにベストアルバムを買った記憶はありますか?
ああ、めちゃくちゃあるよ。The Beatlesの赤盤(「ザ・ビートルズ1962年~1966年」)、青盤(「ザ・ビートルズ 1967年~1970年」)とか。確かビートルズは赤盤から聴いたんだけど、ベスト盤は重宝するよね。あとなんのベスト盤があったか忘れたけど。
──「WHO IS BENZIE?」の収録曲は、浅井さん自身がセレクトされています。選曲にあたって、これまでの作品を聴き直しましたか?
もちろん。めちゃくちゃ数が多いから、全部聴いたわけじゃないけど、ひと昔前と違って、今は簡単に聴けるからね。でも普段はそんなに聴かないよ。ツアーの前にひさしぶりにやる曲を聴いて「どうやって弾いてたかな」ってことはあるけど。改めて聴いてみると、そのときの状況がよみがえるんだよね。
──選曲、大変じゃなかったですか?
もちろん迷ったけど、これを聴いてほしいという思いの強さと、あとはアルバム全体の曲調のバランスだよね。最初は10曲くらいにしたかったんだけど、結局17曲になった。
──しかもシングル曲よりも、アルバム曲がメインになっていて。
そう、シングルカットしてる曲以外のほうが多い。だから自分の選んだベスト盤だよね、これは。レコード会社のベスト盤ではなくて。どっちにもいいところがあると思うんだけど、自分の場合はこうなったということだね。
昔の曲は長すぎるわ
──再録された曲も聴きどころだと思います。「Old Love Bullet gun」(2019年発売のアルバム「BLOOD SHIFT」収録曲)はボーカルだけを録り直したそうですね。
歌のリズムがこっちのほうがいいと思うんだよね。オリジナルの音源をレコーディングしたときから一段階自分がいい感じになっとるもんで、「今歌い直したらもっとよくなる」というのは見えてて。実際、よくなってるんじゃないかな。説明できないけど。
──この曲に限らず、レコーディングのあとで「もっとこうすればよかった」と思うこともありますか?
めちゃくちゃあるよ。歌うときの気持ちみたいなもんだとか、構成とか。とにかく昔の曲は長すぎるわ。前はそのほうがいいと思っとったんだけど。
──確かに最近の曲のほうが……。
短いと思うよ、意識してるからね。昔は「1曲の中で燃え尽きたい」という感覚が自分の中にあって。燃え尽きなきゃ本物じゃないみたいな。でも聴いてる側からしたら、1回聴くと「お腹いっぱいでしばらく聴かなくていいかな」という感じになるみたいで(笑)。3分半くらいとかで成立させてたら、「もう1回聴こうかな」と思ってもらえるだろうし、そのほうが音楽業界では大事なんだなとあるときに気が付きました。ビートルズもそうじゃん。
──特に初期のビートルズは曲が短いですね。
そうでしょ。「カッコいい。もう1回聴こう」ってなるけど、「燃え尽きたい」という感覚だと、そうはいかないから。1曲で燃え尽きるのもいいと思うし、どっちが本物かはわからないけどね。短い曲で燃え尽きるのが最高なのかなと思ったりもするけど、どうだろうね。
詩はカッコつけたらすぐ死ぬ
──AJICOの「キティ」も新録バージョンで収録されています。
こっちのほうがもともとの形なんだわ。曲自体はだいぶ前からあって。「UAと一緒にやったらよさそうだな」と思って、AJICOでレコーディングすることになった。プロデューサーの意向もあって、ああいう形になったんだけど、もともとの感じもすごい好きだったから「いつか(自分の曲として)出したいからよろしく」と言ってたんだよね。
──そしてBLANKEY JET CITYの「2人の旅」も新録されています。
ブランキーの2枚目(アルバム「Bang!」)に入ってる曲だね。20歳くらいのときに作った曲で、最初は弾き語りだったんだよね。(アルバム「Bang!」のバージョンは)土屋昌巳さんにプロデュースしていただいて、壮大に仕上げてもらって。それは昌巳さんが表したかった形で、俺も大好きなんだけど、いつか弾き語りの感じで世に出したなとずっと思ってたんだよね、30年間。ようやくその形でやれたのでよかった。
──30年かかってようやく実現した、と。
常にそのことを思ってたわけじゃないけどね。
──「2人の旅」を書いた20歳の頃は、どういう状況だったんですか?
状況? 毎日働いて、寝るっていう(笑)。バンドを組んでたこともあるし、解散しちゃってメンバーを探してたときもあって。1人で住んでたから、たまに友達が来て、酒飲んだりね。新しい曲できたら聴かせ合って「すごくいいじゃん」って言い合って(笑)。
──その頃、将来のことは思い描いていたんですか?
もちろんバンドで有名になってやろうと思ってたよ。
──そんな時期に書いた曲が、2025年に改めてリリースされるというのは……。
すごいよね、そう考えると。歌詞もその頃に思い付いたやつだし。自分が歌詞を書ける人間になれるとは思ってなかったけど、たまに文章とかも書いたりしてたんだわ。小さいノートを持ち歩いてて、仕事の休憩中とかに詩を書いたり。それをあとから読み返して「なかなかいいじゃん」って思うこともあったんだよね。大事なのは自分が感じたそのままを書くことかな。それを自分で読んで「いいじゃん」と思うんだから、それが一番いいんだよね。
──感じたこと、思ったことをそのまま書くのは意外と難しいことだと思いますけどね。
そうかな。なんでもいいじゃん。めちゃくちゃ人多いなとか、電車なんか乗りたくないとか。それをあとで読むと、意外といいんだわ。それ以上のことを書こうとしなくていいし、そういうのは要らないんだよね。
──詩を書こうとすると、どうしてもカッコつけてしまう気がします。キレイに書こうとか。
カッコつけるのはダメなんだわ、詩においては。街を歩くときに服とかでカッコつけるのは全然いいんだけど、詩はカッコつけたらすぐ死ぬ。それは一番よくないことだね。歌詞を書くこともそうで、カッコつけたってしゃあないじゃん。それが最後の砦かもしれないね。
──カッコつけず、そのまま書くことが最後の砦。
うん。本読んでても、「ダメだな」とか「いいな」「この人素直だな」っていうのはすぐわかるでしょ。ライターもそうだよ。
──身につまされます……。もちろん曲にするときも、カッコつけないことは前提なんですよね?
そうだね。ただ「聴いてほしい」という思いが出てくるから、曲を作ってるときは。そこはいろんな場面があるし、「本当はこう言いたいけど、ここまで言うと嫌われるかな」とかさ。「もうちょっと穏やかにしようかな」と思うこともあるし、めちゃくちゃ酷いことを書いたときは「これはよくないから、出さないでおこう」ということもあるよ。
──それで傷付く人がいるかもしれない、と?
それは絶対よくないからね。昔はあんまり気にしてなかったけど、途中からそういうことも考えるようになった。音楽は人を傷付けたらダメだし、みんながうれしくなるようなこと、元気になるようなことを歌うべきだと思ったんだよね、ある時期に。
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大丈夫だよね?