結成20周年を迎えたlynch.が、インディーズ時代の音源をリテイクしたアルバム「GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN」を4月30日にリリースした。
「GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN」は現在は入手困難となっているアルバム2作品を再レコーディングした作品で、再録曲のみならず新曲「GOD ONLY KNOWS」も収録した、バンドの過去と現在が入り混じったアルバムだ。
音楽ナタリーでは今作のリリースを記念して、メンバー全員にインタビュー。長いキャリアを誇る彼らの楽曲はなぜ多くの人の心を突き動かすのか? 彼らのライブパフォーマンスはなぜオーディエンスの魂を揺さぶるのか? それらの答えを探りながら、発表から20年が経つインディーズ作品をリテイクするに至った理由を聞いた。また「GOD ONLY KNOWS」は新曲ながら、“純粋な新曲ではない”というリテイクアルバムならではの楽曲だという。その意味とは? メンバーたちの言葉から今作の魅力を紐解いていこう。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 佐野和樹
lynch.のライブはなぜ人を魅了するのか
──lynch.は音源や楽曲はもちろんですが、それ以上にライブを通じてファン層を拡大してきたバンドという印象があります。事実、僕も皆さんのライブに惹きつけられた1人で、1度観たら老若男女を問わず絶対にハマるんじゃないかと思っているほどで。lynch.のライブってなぜここまで魅力的なんでしょうね。
玲央(G) なかなか難しい質問ですね(笑)。ちょっと質問から外れた答えになってしまうかもしれませんが……個人的な話として、僕は高校の同級生にLaputaのJunjiくん(B)がいて。彼は出会ったときからほかの子とは違う、異質なぐらいのスター性を持っていて、同い年で同じ地域で同じように育ってきたのに全然違うなと思ったんです。と同時に、音楽を続けるなら自分にできるやり方を探さないといけないということも、lynch.を始めるにあたりすごく考えていたことで。生まれ持った華のある人もいれば、雑草からスタートして花を咲かせる人もいる。それで言ったら、lynch.は後者なんですよ。僕はそういう泥臭い部分もlynch.の魅力に変えていきたいと思っていたので、その結果おっしゃるような形でライブを評価してもらえているのなら、すごくうれしく思います。
晁直(Dr) lynch.はヴィジュアル系というくくりで活動していますけど、意図的に彩ったものじゃなくて“本能的に作られた華”みたいな一面がライブに表れているんじゃないかな。昔から泥臭いライブをやってきましたけど、“本能的”という言葉が一番しっくりくるので、そこが皆さんに受け入れてもらえたのかもしれませんね。
悠介(G) 僕はそのあたりをあまり客観視したことがないですけど、5人それぞれのキャラクターが立っていて、どこを見ても飽きないパフォーマンスができるのが一番の強みなんじゃないかな。
明徳(B) そもそもlynch.は5人とも年齢がバラバラで、育ってきた環境とか聴いてきた音楽も違うけど、5人それぞれが持っている「ロックバンドってこうだよね、5人組バンドはこうあってほしいよね」という思いがうまいこと一致して、同じ方向を向いているのも大きいんでしょうね。
悠介 そこにサウンド面での魅力が加わって、かつMCではユルい部分も見せて、締めるところはしっかり締める。エンタテインメントとして、しっかりまとまっているというのはあるのかもしれないです。
明徳 硬派なようでひねくれていて、でもどこかストレートという絶妙なバランス感を打ち出すのもライブにおけるlynch.らしさなのかもしれません。
──なるほど。葉月さんはどうでしょう?
葉月(Vo) 自分はライブにおいて、まず観てくれる人たちに刺さりやすい演奏、心を動かしやすい構成や曲の展開を用意することを常に心がけています。イントロで「ドンッ!」とバンドの演奏が始まったときに痺れるであろうポイントなどは常に意識しているかな。あとは、ヴィジュアル系と言われているほかのバンドと比べて、作り込んでいる要素があまりないのも、大きいかもしれないですね。それと「まだまだいけんだろ!」という煽り言葉も、とりあえず言ってこうってことではなく、あまり盛り上がってないときにこそ問いかけるように使うし、いいときは「いいね!」って言いますし。そこのやりとりがうわべでなく、本心であることが、強みだと思っています。
スタイルが確立された2013年
──今のようなlynch.のライブスタイル、ベースが確立されたと実感できたタイミングはありますか?
葉月 僕は明確にあります。2013年ですね。もともと僕はMCを一切しない、カリスマ的な存在になりたかったんですけど、ライブを続けていくうちに「自分はそういうタイプじゃないのかな」とうすうす気付いてしまって。あと、メジャーデビューするかしないかぐらいのタイミング(2011年前後)でメイクを落としたことがあって、当時は「メイクをしているからロックバンドとしてはニセモノだ」と言われがちで、それを気にして全員すっぴんでライブをやっていました。でもそれによって大事な個性の1つを失っただけだったのかなと、あとから気付いたんです。それ以降はメイクもまたするようになって、衣装もしっかり着て、MCも言いたいことがあったら全部言うし、ときにはユルい感じでもいいじゃんと思えた。その要素が全部そろったのが2013年だったんです。
玲央 確かに「EXODUS-EP」(2013年8月発売)とか「GALLOWS」(2014年4月発売)をリリースしたあたりに、「バンドとしてこういう形がlynch.らしいよね」という意見がメンバーとファンの皆さんとの間で合致した印象がある。とはいえ、「こうあるべき」「こうしなければいけない」とガチガチに決め込みすぎるわけではなくて、その場その場でどう動くか判断するような人間味があふれてきたのがちょうど11、2年くらい前だったのかな。
──なるほど。ステージ上でのlynch.の皆さんは華やかさ、煌びやかさが確実にあって、そこに惹きつけられる女性ファンも多いと思います。と同時に、同性として素直にカッコいいと思える魅力も兼ね備えていて。僕自身もそういう両面に惹きつけられることが多いんです。例えば、メンバー同士のパフォーマンスを見てカッコいいと思ったり痺れたりする瞬間ってありますか?
悠介 ないです(笑)。
葉月・玲央・明徳・晁直 (笑)。
悠介 僕は目の前のお客さんのことしか見ていないので。
明徳 僕は誰がどうっていうことじゃなくて、例えばセットリストの中にはすでに何十回、何百回とやり込んでいる曲もあったりするじゃないですか。みんなの体に染み込んでるような曲をやったときの一体感というか、この曲になるとガツンとくるなっていう瞬間はたぶん外から見てもカッコいいんじゃないかなと思います。
葉月 僕もないですね。自分のことで精一杯なので、メンバーのことを観ている時間はほとんどないですし。
──あとから映像で確認したり……。
葉月 映像は観ないです(笑)。
玲央 僕は葉月とは逆に、毎回必ず映像をチェックしているんですよ。もちろんメンバーそれぞれにカッコいいと思う瞬間はたくさんあって、例えば悠介の見せ場では若干後ろに下がったりとか、ここではみんなに葉月を見てほしいから一歩下がったりとか、そういう俯瞰視は地味に意識しています。
晁直 僕はドラムというポジション的に、おのずとみんなの姿が視界に入るので、カッコいい云々というよりは、ここ数年は特に1人ひとりのキャラが確立されてきたなと感じますね。バラバラだけどそこがいい、みたいな。
今のlynch.も昔のlynch.もすごい
──先ほど明徳さんから、やり慣れた曲で見せるカッコよさという話が上がりましたが、一方でひさしぶりに演奏する曲のときは緊張感もあるのかなと思います。そういうときって、例えばリリース当時のことが思い出されたりもするんでしょうか。
明徳 もちろんありますし、それこそ最近「ULTIMA」(2020年3月発売)というアルバムのツアー(今年3月開催の「[XX]act:3 TOUR'25 -ULTIMA- [SHADOWS ONLY]」)をやったんですけど、あのアルバムはたぶんlynch.の作品の中でも一番チューニングも低いし、速い曲も多くて。「4、5年前はこんなことやってたのか。すごいことやってたんだな」って、改めて実感したばかりです。
──そういう意味では、今回リリースされるリテイク集「GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN」の楽曲も、演奏するたびにリリース当時のことを思い返す瞬間が多いのかなと思います。ここからはその「GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN」についてお話を伺っていきたいのですが、まず当時の音源をそのまま再発するのではなく、新規でレコーディングした理由から聞かせてください。
玲央 「greedy dead souls」も「underneath the skin」も今は販売されていないんですけど、途中からバンドに加入した悠介と明徳が参加していないアルバムなので、せっかくだったらこの5人で録り直したい、というのが一番の理由です。それに、ここまで20年活動してきたので、今の自分たちだからこその解釈を盛り込んだ作品にできるんじゃないかと思ったんです。
──最初期の楽曲を現在進行形のバンドとして表現したかったと。実際に聴いてみると、楽曲的には現在のスタイルへとつながる原点的なものが見えてきて、lynch.というバンドの根底にあるルーツも垣間見えます。葉月さんや玲央さん、晁直さんは20年前の楽曲と改めて向き合うことで新たに発見できたものって何かありましたか?
晁直 これまでライブで何度も演奏してきたことで、スタイル的には今のプレイにどんどん変わってきていて。ライブではこれが正解かもしれないけど、音源になったときにはそれが必ずしも正解とは限らないという曲もいくつかあったんです。なので、それをライブ仕様から音源ならではのアレンジに変えることを意識しながら録りました。あとは、初期の頃に録った音源から余計なものを排除するとか、今だからこそ当時の曲を俯瞰で聴けるところもありましたね。
葉月 ボーカルに関しては、当時と今とではシャウトの仕方が全然違うんです。自分としてはクオリティの低いところから高いところにただ進化したと思っていたんですけど、出し方自体がまったく別のものだっていうことが今回録ってみてわかって。当時の音源を聴いて一応真似をしてみるわけですけど、体の中で鳴らすところがまったく別なんだという発見もあって、昔の音源からいろいろ教わることも多かったです。クリーンボイスに関しては、当時はものすごく重い声で歌っているので大変そうだなと思いつつ、今は軽々といけたのも気付きでしたし。あとは、単純に曲が面白かったですね。「これ、なんでこんなふうにしたんだろう?」って不思議に感じる部分も多いうえに、何より歌詞が今よりも短い。(手元にある資料を見ながら)「※歌詞は存在しません」なんて注釈が入ってる曲もいっぱいある。「そんなことある?」って我ながら驚きました(笑)。
──それは僕も思いました(笑)。特に今作は新曲「GOD ONLY KNOWS」も含まれているから、「初期曲はここまで歌詞が短かったのか!」とびっくりしましたし。
葉月 あの頃は本当に歌詞に興味がなかったんですよ。洋楽を聴いていても、僕は英語ができるわけじゃないからなんて言ってるかわからない。「だったら意味とかなくてもよくない?」という感じだったと思うんです。それこそデタラメ英語みたいにノリで作詞していくみたいな。今思うと恐ろしいですよね(笑)。
玲央 でも、当時から「10年20年経っても恥ずかしくないものを作っていこう」とは話していたよね。今回は間奏のリズムを変えたとかそういったアレンジの変化はあったとしても、楽曲自体の土台がひっくり返るようなアレンジは一切していないので、当時のままパッケージできたという意味では有言実行と言いますか。きっとあの当時、ただ流行りに乗った音楽をやっているだけだったら、今回のように20年前に作った楽曲を再レコーディングすることも実現できていなかったと思うんです。そう考えると、今作は「あの当時の自分たちの考えは間違ってなかった」という証明にもなるので、すごくうれしいです。
──リテイクするにあたって、当時の機材を使ったりしたんでしょうか。
玲央 いや、メインのバッキングは今のlynch.が出している洗練された音で録ったほうがいいという判断で、最新のものを使ってます。ただ、曲によっては「どうしてもこのエフェクターを使いたい!」ってことで……例えば「ラティンメリア」でのトレモロのクリーントーンは、シミュレーターとか今ライブで使っている新しい機材ではしっくりこなくて、当時のRoger MayerのVoodoo-Vibeを倉庫から引っ張り出してきて使いました。
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あの頃にしかできない表現もあった