AK-69インタビュー|これまで出会ってきた人も、まだ出会ってない人も、全部含めて俺を形成してくれた (3/3)

今のYZERRは“はぐれメタル”

──見事、そのオファーが実ったと。

今のYZERRって、本当に“捕まえられない存在”なんですよね。ドラクエで言ったらはぐれメタルみたいな(笑)。でも、「絶対にやってくれる」と思ってました。実際にこの話が動き始めてから、途中で「これ、ホンマに完成するんか?」と不安になった時期もあって、制作が何度もリスケになった。でも、こうやってYZERRが形にしてくれたというのは、やっぱりうれしかったですね。この曲だったからこそ、彼も最後まで付き合ってくれたんだと思います。男同士の約束として、最後までやり切ってくれたんだと感じてますね。ほかのアーティストと一緒にレコーディングしてあれだけ感動したのは本当にひさしぶりでした。あんまり言いたくないけど、本当に泣きそうになったというか……。

YZERR

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──YZERRさんが書き下ろしたリリックについて、どのように思いましたか?

今のYZERRって、本当に表現が秀逸で、リリックの中に今っぽいメタファーを入れるのもうまいんですよ。だけど今回のリミックスでは、そうしたメタファーとか比喩は極力使わずに、まるで映画のワンシーンのような、自分のメンタル面に徹した率直なリリックを描いてくれたんです。ブランド名とか固有名詞を並べるんじゃなくて、「START IT AGAIN」の世界観を理解したうえで、そこにちゃんと焦点を絞ってくれた。彼がその曲に対してしっかり考えてきてくれたことも本当にうれしかったです。あのリリックを聴いて、「俺にまだ出会っていなかった少年時代のYZERRから、今ここにつながってるんだな」と感じて。日本のヒップホップの歴史がまた厚くなった瞬間だと思いました。これこそ「My G's」で表現した縁というか、1周も2周もまわって、ようやくここに到達したんだなと思うと、すごくエモかったです。

──YZERRさんとご自身の間に、共通点を感じることはありますか?

俺以上に何もないところから、ハンデを背負った環境から出てきたというところですかね。YZERRとT-Pablowのことは昔から見てますけど、初々しかった頃のあいつらが「何を目指してどれだけストイックにやりたいか」を考えていたことが原点にあるんですよね。自分の状況を自分の力で変えていって、周りへの影響力を自分で培っているというところからは、若い頃の自分を見ているような野心を感じますね。YZERR自身は、俺に対して「野心はない」って言うんですよ。でも、俺にはフリにしか見えないというか。じゃないと、ああいうリリックは書けないですよ。秘めたる野心は誰よりもあると思うし、めちゃくちゃ賢いですよね。

YZERR

YZERR

ギリギリの勝負をキンタマを縮こませながらやっている

──書籍「START IT AGAIN」についてもお聞かせください。このタイミングで自伝的な書籍を執筆、出版することは以前から考えていたのでしょうか?

これまでにも、何度か出版のオファーをいただくことがあったんですけど「今の時点で俺が自伝を書いても、人の役に立つものにはならないんじゃないか?」と思っていて。ANARCHYとかDS455のKayzabroくんが自伝本を発表した時期もありましたけど、俺は自分が出版することにピンと来てなかったんです。「今じゃねえな」みたいな。それこそ、野心とか勢いっていうのは過去の「THE RED MAGIC」(2011年発表)とか「The Independent King」(2013年発表)を出したときのほうがあったかもしれない。でも、人としての経験値や、これまでに培ったものは、圧倒的に今のほうがある。世のため、若者のために伝える言葉も今のほうがある。悪かったところから今売れてますみたいな状況になったことよりも、売れたという状態から、いろんな側面を補強しながら歩んできたからこそ言える言葉もあるし、感謝の気持ち、自分のビジョンの定め方もある。なので、今だから「本を書こう」という気持ちになれたんです。

──なるほど。

きれいごとじゃなく、人のためになるかどうかなんですよね。ビジネスも音楽も全部そうなんだけど、三方よしというか、みんながよしという状態じゃないと、やっぱりよくないんですよ。俺が経営している自社レーベル / 事務所のFlying B Entertainmentのみんなにもよく言っているのが、「俺たちが稼げたらいいってことじゃない、関わる人やお客さんもハッピーにならないとダメだ」ということ。商業的な部分だけを見据えて本を書くわけではなく、俺が本を書くことがみんなにとっていいタイミングになるのが今だ、と感じています。あと、こうして活動してきて思うのは、「人に与える人じゃないと与えられることはない」ということ。瞬間的な自分のエゴとか、利己的な考えじゃダメなんですよ。お金や地位、名声は瞬間的にゲットできるんですけど、そういったものは永久的なものにはならないんですよね。

AK-69「START IT AGAIN REMIX feat. YZERR」ミュージックビデオより。

AK-69「START IT AGAIN REMIX feat. YZERR」ミュージックビデオより。

AK-69「START IT AGAIN REMIX feat. YZERR」ミュージックビデオより。

AK-69「START IT AGAIN REMIX feat. YZERR」ミュージックビデオより。

──そして、この6月には初の横浜アリーナ単独公演となる「69 -My G's in YOKOHAMA ARENA-」が控えています。

このタイミングでライブができることは本当にありがたいですよね。決して簡単なことではなく、一生懸命やって、やっと成り立っているような感じなんですけど、でもやっぱり、そういう姿こそ今のシーンに対して見せなきゃいけないことなんじゃないかとも思います。ヒップホップって、日本ではまだまだニッチなんですよ。若者の間で局地的なブームは来ていますけど、一般的にはポップやロックのほうが圧倒的に認知されている。でも、そういうジャンルのせいにはしたくない。絶対、成功には漕ぎ着けるんですけど、その姿こそがAKの真髄だし、ギリギリの勝負をキンタマ縮こませながらやっているっていうところをみんなに見てほしいです。いつになったら「楽勝だな~」っていう余裕を持てるんだろうと思うんですけど、常にいろんなものを背負って、がむしゃらに山を登っているような感覚だからこそ生まれるものが俺の真髄だとも感じているんです。ただ大きな会場で客演陣をたくさん集めてライブをするっていうことだけじゃない、しっかりとした俺にしかできないライブ、俺にしか放てないメッセージを届けるということが第一優先事項。今の日本、今の若者たちに伝えたいことを主軸に置いたステージになると思います。そもそも俺がヤラれたヒップホップって、社会に強烈なメッセージを放つところだったんです。それが原点なんで、やはりそこを体現したいですね。

公演情報

AK-69「69 -My G's in YOKOHAMA ARENA-」

AK-69「69 -My G's in YOKOHAMA ARENA-」フライヤー

2025年6月9日(月)神奈川県 横浜アリーナ

プロフィール

AK-69(エーケーシックスティナイン)

1978年生まれ、愛知県小牧市出身のヒップホップアーティスト。2025年1月に最新アルバム「My G's」をリリースし、同年5月にそのデラックスバージョンと初の著書「START IT AGAIN」を発表した。これまでに5度の日本武道館公演を成功させており、6月9日には初の神奈川・横浜アリーナ公演を開催する。