音響監督は犬派が多い?
──声優業界では犬派/猫派ってどちらが多いんでしょうか?
山田 それは気になりますね!
花澤 私の知っている限りだと、猫を飼っている声優さんのほうが多い印象です。でもなぜか音響監督さんは犬派が多いですね。スタジオにワンちゃんを連れてきたり。
山田 へえ!
──マンガ家さんだとどうですか?
山田 もう、ほとんど猫派ですね。8割くらい猫じゃないかなって思います。犬だと散歩しなきゃいけないし、しつけも必要だし、留守番も難しいですし、でも猫はひと晩くらいならごはんを置いて出かけられるって聞きますしね。
花澤 でもマンガ家さんの机に猫がポンポン乗ってきたら作業が大変そうですよね?
山田 それ、私も思います(笑)。原稿ガジガジされたりしそうですよね。犬だと机に飛び乗ってきたりはしないから、作業環境的には向いてるかもしれません。私も実家では猫も飼っていたので、猫の行動範囲の広さはよく知ってます(笑)。
──ちなみにワンちゃんは今おいくつなんですか?
山田 今年で9歳になるので、そろそろシニアですね。
花澤 さっきからちょっと映り込んでますよね?(※取材はビデオ通話で行われた)
山田 そうなんです(笑)。「俺のこと話してるの?」って顔して見てますね。
花澤 かわいい!
──では最後に、せっかくですからおふたりでフリートークをしていただければと。
花澤 私、先生のマンガの花のトーンっていうんですか? お花がちりばめられてるところがめっちゃ好きなんです。
山田 あれは日高万里さんが描いてくれたお花を使ってるんですよ。マンガ家同士でブラシとかデータを「これ使っていいよ」って渡し合ったりしてるんですけど、今は8~9割、日高万里さんのお花を使わせてもらってます。
花澤 へえ!
──上の世代のマンガ家さんたちがお互いの作品のアシスタントをしていたみたいなお話ですね。
山田 だからたぶん日高さんの「天使1/2方程式」にも同じお花が出てきたりするし、高尾滋さんともブラシを送り合ったりしてるので、高尾さんの作品にも同じお花が登場することもあります。逆に私が描いたお花を日高さんが使ってたりもするんですよ。
花澤 それはやっぱり「花とゆめ」つながりだからってことなんですか?(笑)
山田 そういうのもありますけど(笑)、日高さんってすごくきれいな、デザインっぽい、かっちりしてるのに柔らかいかわいいお花が描ける方なんです。私はどちらかというと、生っぽいリアルなお花を描くので、お互いにないものを補い合ってる感じですね。
花澤 私、「天使1/2方程式」のゆい子さんの声をあてさせてもらったんですが、まさかお花でつながってるとは思わなかったです!
読んでくれる人が「面白い」って思ってくれないと意味がない
──先生のほうから花澤さんにご質問はありますか?
山田 そうですね、長いことマンガ家をやっていると、どうしても自分の描くものが固定化されてしまうんですよ。私はローファンタジーというか、現実にファンタジーが入り込んでいる作品ばかりを描いているんですけど、一度読者さんに、「山田南平が描いたことないタイプのマンガ」で、例えばどんな物語を読んでみたいか、聞いてみたかったんです。ダメ男のヒーローものだったりとか、悪役令嬢ものとか、転生ものとか……何か思いつきますか?
花澤 ああ、でもそうですね、先ほどのお話にも出ましたが、三角関係とまではいかないけれど、いろんな人が主人公の女の子を狙ってくるみたいな……。
山田 なるほど、イケメンがいっぱい出てくるやつですね。確かに描いたことないな。
花澤 先生が描いたいろんなタイプのイケメンを堪能してみたいかも。でも私はやっぱりアッサムタイプの人に惹かれてしまうんだろうと思うんですけど(笑)。もう本当に濃い顔が好きなんですね、私。
山田 いろんなタイプが描けますもんね。チャラ男とか、すんごいダメ男とか、パワー系の人とか……。
花澤 たとえば学園ものにして、先生まで迫ってくる、みたいな。
山田 あ、いいですね。
花澤 大好きなんですよ、あれが。保健室でちょっと……みたいなシチュエーションとか。そういうお話を先生の絵で見られたら幸せですね。
山田 すごく参考になりました。実は今描いている「犬飼くんのシッポ」のネームで、保健室を出そうかと思ってたんですよ(笑)。
花澤 うれしい! 心待ちにしておきます! 保健室のシチュエーションっていいですよね。
山田 カーテンで仕切られていて……。
花澤 こそこそ話ができてしまうという……。
──花澤さん、クラシックというか王道のシチュエーションお好きなんですね(笑)。
花澤 はい、ベタベタなやつが大好物ですね(笑)。その点山田先生は、ブログやXを拝見していると、「ファンの方が喜ぶことをやりたい」っていう気持ちが強いんだなって、いつも思っています。
山田 そうですね。自分の満足感だけで作品を描いてるわけではないので、読んでくれる人が「面白い」って思ってくれないと意味がないと思ってます。だから、自分が描きたいものがあったとしても、「でもたぶんこっちのほうが読者さんは喜んでくれるな」って思ったら、そっちを優先して描くこともあります。
花澤 先生、一生応援してます!
山田 ありがとうございます。すごく心強いです。
もふもふ、すんすん、ぎゅってしたくなる「犬飼くんのシッポ」の魅力
全裸からはじまる衝撃の展開から「恋するMOON DOG」のDNAを至る所に感じてニマニマしながら、ときめいちゃいました。本編に20歳の姿で登場したあの志保ちゃんが、今作では高校生。「満月を見ると犬になる」。この秘密を隠しながら、日々を送っているんですよね。この秘密の要素は、私たちにとっても欠かせないものなんじゃないかなって思うんです。人って簡単にすべてを相手にさらけ出せるわけでもないし、受け入れてもらえるか不安に思ったり……悩みや秘密、いろんな過去があって、今を生きているから。そこに共感したり、自分を投影してみたり、志保の抱える秘密や犬飼くんの思う過去が、こちら側にも寄り添ってくれているようにも感じて……山田先生、ありがとうございます!!
現時点で犬にだけ(?)ほだされてくれる犬飼くんと、すでにほだされかけている志保ちゃんの関係もいいですし、今後この2人がどう向き合って、互いを受け入れていくのか、その過程が楽しみで堪りません。犬も、人も、どんどん絆されていって、幸せで満ち溢れていって欲しいなって思います。
スピンオフ作品とのことですが、本作からこの世界に飛び込んで来てくださる方にとっても、是非、おすすめしたいです。もふもふ、すんすん、ぎゅってしたくなる、ここからしか得られない愛おしさと健やかさが詰まってます。
潘めぐみから山田南平へ2つの質問
「紅茶王子」との出会いが、山田先生との出会いでした。この仕事をはじめて先生とご一緒させて頂いたのもまた「紅茶王子」で……。本当に有難い気持ちでいっぱいです。こうしてご縁が続いていくことに幸せを感じながら、先生の作品たちに触れたり、「好き」が溢れているブログを覗き見するのも、私にとって至福のひとときです。
そんな敬愛する山田先生に質問が2つ、あります!
時代が変わるにつれ、変わらない(そのままで在って欲しい)ものもあれば、移ろっていく人の感覚や感性みたいなもの(性格や言葉選び、感情表現の方法だったりなど)ってあると思うんですが、そうしたものって、どういったところから吸収して、作品に投影されているのでしょうか?
そして、もう1つ! 今作でシッポの名前の由来が明らかになりキュンとしました。シッポを感じる志保の名前、いいですよね! あ、逆ですかね、志保を感じるしっぽの名前! このシッポの名前は、やはり志保ちゃんから来ているのですか? 気になります!
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潘めぐみへの感謝のメッセージ
流行の参考は、SNSやVtuber
長くマンガを描かせてもらっている中で、流行をとらえるのはやっぱりとても大事だと思ってます。流行にも種類がありますが、一番気を使っているのは「価値観」です。25年前にはみんなが笑えた展開や表現でも今やったら白けてしまったり不快に思われるようなことも多くて、そのあたりの空気感や時代の価値観に一番敏感になっています。
これはテレビや雑誌・新聞だとまだ少し時代がうしろにずれている事が多いので、ネットに助けてもらっています。SNSや動画配信サイトなどで若い世代の発言を聞いてみたりですね。若い人の言葉遣いなんかも、20代の若い人たちの配信を見ることで最近の若者言葉に触れられるので助かっています。
実はここ数年、国内外のVTuberに色々はまっているんですが、(そのつもりではまったわけではないんですが偶然に)これが20代から30代くらいの若い人たちの様子を観察するのにとても役に立っています。
独特な言い回しだったり自然な話し言葉だったり、流行りの音楽やゲームだったりもですが、実はVTuberって最新の絵柄が反映されている存在なので、マンガの画風や色の塗り方なんかをすこし今風に寄せたいなと思った時にとても参考になるんですよ。
シッポの名前の由来は……
主人公は尻尾の長いコーギーにしたいなとずっと思っていて、拾った犬好きの男の子が第一印象で名前を付けるとしたらどんな名前になるかなと考えて、見た目の特徴から「シッポ」とつけたのがきっかけだったと思います。
そのあとにじゃあタイトルは「〇〇くんのシッポ」にしようと思って、2話のラストのセリフもその時決まり、で人間の時の名前を考えたときに似てるから「志保」で、という順序でした。
シッポの犬種→シッポの名前→タイトル+ラストの台詞→志保の名前、という。人間の名前が最後でしたね(笑)。
潘めぐみさんの奈子を今でも聞いてもらいたい
10年ほど前に「桜の花の紅茶王子」のドラマCDで奈子役をやっていただいことが、潘めぐみさんという声優さんを知るきっかけでした。
「紅茶王子」は20年以上前にもドラマCDのシリーズを何作も出してもらっていたのですが、当時と同じ声優さんに演じてもらうのは無理ということでまた新たにキャスティングをしなければいけなくなり、困っていたんですね。
特に奈子は、ボーイッシュな感じのヒロインではありますが男の子っぽすぎても女の子っぽすぎてもダメだと思っていたので、前作同様のレベルで奈子を演じてくれる役者さんがちゃんと見つかるだろうかと心配していました。(前作の奈子を演じてくださったのは、ゆきのさつきさんでした)
そんな事情で何名もの声優さんのサンプルを聞かせてもらった中、潘さんの声質と演技がもう理想すぎて「この方にぜひお願いしたい」と思い、お仕事を受けてもらえるかどうかが決定するまで本当にドキドキしていたのを覚えています。
結果、理想の、でも新しい奈子を誕生させていただいて、本当に感謝しかありません。
当時のドラマCDは、実は私もいまだに思い出しては引っ張り出して聞きながら原稿作業をしていたりするんです(笑)。
CD自体はもう入手困難になってしまっているのですが、潘めぐみさんの奈子と細谷佳正さんのアッサムと花江夏樹さんのアールグレイをいろんな人に聞いていただきたいなあと今でも思っています。
プロフィール
山田南平(ヤマダナンペイ)
1991年、花とゆめプラネット増刊春の号(白泉社)に掲載された「48ロマンス」でデビュー。以降、花とゆめにて「オトナになる方法」「紅茶王子」、別冊花とゆめ(ともに白泉社)にて「空色海岸」「オレンジチョコレート」など多数発表。白泉社の電子雑誌・花ゆめAiで連載された「恋するMOON DOG」は170万部を超えるヒット作となった。現在、花ゆめAiで「犬飼くんのシッポ-恋するMOON DOGスピンオフ-」、電子BL誌のTrifle by 花とゆめで「イケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい? ~恋するMOON DOGスピンオフ~」、白泉社のアプリ・マンガParkで「金色のマビノギオン ―アーサー王の妹姫―」を連載中。
山田南平Official (@nanpei_yamada) | X
花澤香菜(ハナザワカナ)
2月25日生まれ、東京都出身。2003年放送のTVアニメ「LAST EXILE」のホリー・マドセイン役として声優デビュー。2006年、TVアニメ「ゼーガペイン」にヒロインのカミナギ・リョーコ役として出演。同作をきっかけに、本格的に声優活動を開始する。主な出演作は「鬼滅の刃」(甘露寺蜜璃役)、「五等分の花嫁」(中野一花役)、「化物語」(千石撫子役)など多数。歌手としても精力的に活動し、2024年には7thアルバム「追憶と指先」をリリース。5月14日に最新シングル「やれんの?エンドレス」をリリースした。
潘めぐみ(ハンメグミ)
6月3日生まれ、東京都出身。2011年に「HUNTER×HUNTER」の主人公・ゴン=フリークス役で本格的に声優として活動を始める。主な出演作品に「【推しの子】」(有馬かな役)、「しかのこのこのここしたんたん」(鹿乃子のこ役)、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」(セイラ・マス役)、「ハピネスチャージプリキュア!」(白雪ひめ / キュアプリンセス役)などがある。