ナギが動かないと話が動かない、いわば乙女ゲームのプレイヤー
──これまでの制作の中で、生みの苦しみを特に感じたシーンや展開はありますか?
日向夏 ツクヨミとナギの関係性が、私の中ではけっこう難しくて。でも赤瓦さんと花とゆめの編集さんはツクヨミをヒーローとして出してほしいようで……そのあたりの意見交換は、連載開始時からずっとやっていますね(笑)。
赤瓦 こちらからはツクヨミとトータのダブルヒーローにしたいという意見を出させていただくなど、2人のバランスについてはすごく相談しましたよね。ツクヨミさんは寡黙なタイプだから動かしづらい部分もあったと思いますが、日向夏先生にはとてもがんばっていただきました。
日向夏 少女マンガの情緒がわからないことも多くて、恐縮です。実は私の中では最初、トータがメインのヒーローだとイメージしていたんです。でもトータくんは負け犬だからこそ好かれる子でもある気がしていて……(笑)。難しいですね。
──彼らの関係性が今度どう展開していくかも楽しみです。ちなみにこれまで、おふたりの話し合いを経て展開が大きく変わったシーンはありますか?
日向夏 先日の花とゆめ掲載号は、個人的には面白かったです。オモイカネをメインとしたシーンが掲載される予定だったのですが、その掲載号は注目を浴びていた特大号ということで、オモイカネが続くとちょっと華がないかもしれないという話になり……(笑)。
赤瓦 オモイカネには申し訳なかったですが(笑)、ツクヨミとトータの邂逅シーンを急遽少し多めにしたんですよね。編集さんと相談して、日向夏先生に提案させていただきました。
──では、おふたりそれぞれ、これまでの連載の中で特にお気に入りのシーンは?
日向夏 新入生歓迎オリエンテーリングのエピソードは、序盤にしてはいい展開にできた気がして、気に入っています。
赤瓦 私もオリエンテーリングのエピソードは好きです。あとは、個人的にオルハさんがとても好きなので、遊園地編でオルハさんがナギちゃんを助けるシーンがとても気に入っています。そこは作画のときも力が入ってしまった気がします(笑)。
──オルハさんのどういう部分がお好きなんですか?
赤瓦 最初にキャラクター設定をいただいた段階から好きだったのですが、そもそも敵から味方になるキャラに魅力を感じるんですよね。嫌なやつだと思っていたら、実は悪役ではなかったという。少しコンプレックスや弱い部分があって、それを補うためにがんばっているところも魅力的です。
──キャラクターデザインに関しては、日向夏先生から赤瓦先生へ具体的にイメージを伝えているんですか?
日向夏 私のイメージはけっこう曖昧で、赤瓦さんに質問をいただく中で具体化されていくことが多いですね。一番細かく説明したのは夜刀神だと思います。「乙女ゲーで考えたら、そろそろ変わり種の男子を入れなくては」と思ったタイミングだったので、今までいなかったような少し剃り込みが入ったヘアスタイルなど、具体的なイメージをお伝えしました。
赤瓦 私がこれまでに描いたことのない髪型だったので、ドキドキしました(笑)。
日向夏 おかげ様で、個人的には夜刀ちゃんが一番好きなキャラです。10巻で表紙を飾ったときは「みんな見て!」という気持ちでした。
赤瓦 本当ですか? うれしいです! 夜刀神は衣装も複雑なので最初は大変でしたが、慣れてきたら小物などはアシスタントさんにお願いできるようになって、だいぶ楽になりました。ツクヨミさんのほうが「美形に描かなきゃ」というプレッシャーがすごいので、毎回緊張しますね。夜刀神はある程度崩れても、それも味になるカッコよさがあるんですよね。
──主人公のナギは相変わらずしっかり者で、安心して応援していられます。
日向夏 先ほど「乙女ゲー」と言いましたが、私はナギに関しては主人公というより、乙女ゲーのプレイヤーのようなイメージで書いているんですよ。ナギは自分のことで悩まないけど、彼女が動かないと話が進まない。そういうところがプレイヤー気質なんですよね。
赤瓦 なるほど。確かにナギちゃんは、自分自身のことであまりストレスを感じないキャラクターだなと思っていました。いい意味で癖がないというか、たとえ悩んでもスパッと次に行ってくれるから、読者の方もストレスを感じないだろうなと。そこは乙女ゲーの主人公に重なりますね。
日向夏 あと、個人的にみるるちゃんには、赤瓦先生の愛が一番込められているような気がするんですよ。セリフにもアドリブがけっこう入っていますよね?
赤瓦 そうかもしれないです(笑)。みるるちゃんには、自分なりのこだわりポイントがありますね。私が好きなキャラを3人挙げるとしたら、オルハさんとみるるちゃん、あと最近はたけるがグンと来ています。たけるは小説版を読んだときに、妹を助けるためとはいえ、10代にしてはあまりにも覚悟が決まりすぎている子だなと思って。自分はもともとお兄ちゃんキャラが好きなので、そういう意味でもグッとくるポイントが多い子です。
──小説4巻ではたけるの激しいバトルシーンがありますよね。マンガでどう表現されるのかが楽しみです。
日向夏 あそこは「赤瓦さんごめんね」と思いながら書きました(笑)。
赤瓦 「どうしよう。これ、私が描くんだ……」と思いながら読んでいました(笑)。がんばります……!
日向夏 今後はたけるがますます活躍していくので、ぜひ注目していただきたいです。たけるに見惚れるようなコマを、赤瓦さんがたくさん描いてくださると思います!
小説5巻からマンガと小説はルートが分岐、どちらも楽しんでほしい
──日向夏先生は「薬屋のひとりごと」がアニメも含め大ヒット作となりましたが、ここ数年でご自身を取り巻く状況はかなり変わりましたか?
日向夏 だいぶ変わりましたね。でも私は田舎で田んぼの真ん中に住んでいるので、普通に生活している分には驕らずにいられると思っています。調子に乗り始めたら潰されると思うし、足元を固めて生きていたいですね。昨日は、占い師から「仕事が増えすぎていてそろそろ倒れるから、仕事を減らすか人を増やすかしなさい」と言われました。
赤瓦 それはきっと、占い師じゃなくてもみんな同じ気持ちです(笑)。
日向夏 (笑)。その後タロットカードを引いたら、なんと「死神(DEATH)」のカードが出ました(笑)。
──(笑)。どうぞ健康第一で執筆を続けていただきたいです……。「神さま学校」と「薬屋のひとりごと」には、ミステリーやラブコメなど共通する要素がありますね。
日向夏 どれか1つのジャンルだけで書いていたら、特定の層には突き刺さるけど、ほかの層には興味を持っていただけないので、いろんなものをごちゃ混ぜにして入れています。たとえ「この成分を濃くしてください」と言われても、「うちはこの味なんで」としか言えないんですよね。新しいことにどんどん挑戦して、いろんなものを吸収して書き続けていきたいです。とにかく「神さま学校」を読んでほしいし、赤瓦さんのいい絵をもっとたくさんの方に見ていただきたいので、たくさん宣伝していきたいですね。
──先ほどもお話に上がりましたが、今後の「神さま学校」は小説とマンガでストーリーが分岐していくということで、具体的にはどのように分かれていくのでしょうか。
日向夏 出てくるキャラクターや基本の流れは一緒ですが、視点やキャラクターの行動の指針が変わっていくイメージです。それぞれ個人の視点で見ると、印象がガラリと変わっていきます。
──「神さま学校」ワールドをしっかり理解するためには、読者の方にぜひ小説とマンガの両方を読んでいただきたいところですね。
日向夏 マンガが本当に素晴らしいので、今までは好きなほうだけ読んでくれたらいいと、私としては思っていたんですけどね(笑)。これからは小説も併せて読んでもらえたらうれしいですね。
赤瓦 私は個人的には、コミカライズ版と原作小説の2つがあったら、小説のほうだけ読む派なんですよ。
日向夏 ああ、私はコミカライズ版だけを読む派です。
赤瓦 逆ですね(笑)。小説を読んでくれた方に、できればマンガのほうも手に取っていただけるようにがんばりたいです。
日向夏 私は、マンガを読んでくれた方の中に「もっと活字を読みたい」と思う層を何%増やせるかが小説の役割だと思っています。悲しいことに活字がなかなか読まれない時代なので、マンガで面白さを宣伝していただきつつ、どうしたらもっと小説を読んでもらえるかを、常に考えていますね。
──本編ではナギの神通力がどんどん明らかになり、物語も深みを増してきていますね。今後の展開ではどんなところに注目してほしいですか?
日向夏 ナギの神通力については、作中にけっこうヒントをちりばめています。おそらく1、2割の読者の方は気づいてくださっているんじゃないかな。少しずつ「そういうことだったのか!」と楽しんでいただけると思うので、今後もいろいろと考えながら作り上げていきたいですね。
好きな神通力はどれ? 神通力の診断チャート企画をやってみた
──今回の特集記事では、いくつかの質問に答えていくことで、自分が持っている神通力を診断できる診断チャート企画もご用意しています。おふたりは好きな神通力を自由に習得できるとしたら、何を選びますか?
日向夏 一番便利なのは夜刀ちゃんの引寄能力&転送能力でしょうね。物を運ぶのに便利だから、忘れ物をしたときや旅行に役立ちそう!
赤瓦 私もほぼ同じ理由で、瞬間移動を身につけたいです。旅行のときに便利そうだし、雨の日も屋根の下から屋根の下まで移動できて便利。横断歩道も、信号を気にせず渡れていいですよね。
──では、ご自身が持っていそうな能力は?
日向夏 うーん、難しいですね……。念動力は、持っているキャラクターが祖父江先生やサガミ、タロウくんなど陽気な子ばかりなので、楽しそうだなとは思います。
赤瓦 難しい……。自分に近いと感じるキャラクターは特にいないというか、そこについて考え始めると、なんだか少し恥ずかしい気持ちになってきます(笑)。
日向夏 わかります。どこか恥ずかしいですよね(笑)。
日向夏、赤瓦もどむが実際に神通力診断を体験! その感想は……?
日向夏 神通力:瞬間移動
モナカ、オルハの瞬間移動でした。そう言われたらそうかもしれなーと思いつつ、やっぱ引寄能力とかあると忘れ物したとき便利なので、そこまでできるようにがんばるかーなどと思いました。そういや一部を除き、努力家タイプが多い能力ですねー。
赤瓦もどむ 神通力:残留思念読取
残留思念読取になりました! みるるちゃんとお揃いでうれしいですが実際にこの能力が備わってしまうと大変ですよね。でも私、ヘアピンやらヘアゴムやらを紛失することが多いのでこの能力があればどうにかこうにか探し出せるのかも……!
神通力診断サイトはこちら!日向夏・赤瓦もどむのサイン入り単行本もプレゼント
コミックナタリーでは作中に登場する不思議な能力・神通力を診断するサイトをオープン。Xに診断結果を投稿すると、日向夏・赤瓦もどむのサインが入った「神さま学校の落ちこぼれ」単行本1巻を抽選で20人にプレゼント! キャンペーンは5月20日から6月20日まで。このチャンスをお見逃しなく。
プロフィール
赤瓦もどむ(アカガワラモドム)
2011年、ザ花とゆめ(白泉社)にて「恩返しUMAうにょくらげ」でデビュー。花とゆめ文系少女(白泉社)で鳳乃一真のライトノベル「龍ヶ嬢七々々の埋蔵金」のコミカライズを担当。2015年に「兄友」の連載がスタートし、2018年に全10巻で完結。同作は横浜流星主演により実写映画化、実写ドラマ化を果たした。2019年より花とゆめ(白泉社)にて「ラブ・ミー・ぽんぽこ!」を連載。同作は全5巻で完結した。現在花とゆめで「神さま学校の落ちこぼれ」を連載中。単行本は最新11巻まで刊行されている。
日向夏(ヒュウガナツ)
小説投稿サイト・小説家になろうに発表したミステリー「薬屋のひとりごと」がヒーロー文庫より書籍化。同作はコミカライズが2作展開されており、倉田三ノ路作画による「薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~」が月刊サンデーGX(小学館)で、ねこクラゲ作画、七緒一綺構成による「薬屋のひとりごと」が月刊ビッグガンガン(スクウェア・エニックス)で連載中。またTVアニメ第1期が2023年に放送、第2期が2025年1月より連続2クールで放送されている。現在、星海社より「神さま学校の落ちこぼれ」を刊行。最新5巻が、5月27日に発売される。このほか著作に「トネリコの王」「繰り巫女あやかし夜噺~お憑かれさんです、ごくろうさま~」「なぞとき遺跡発掘部」「女衒屋グエン」など多数。「繰り巫女あやかし夜噺~お憑かれさんです、ごくろうさま~」は月刊コミックZERO-SUM(一迅社)で提灯あんこによるコミカライズが連載されている。